魂魄妖夢の一日は料理を作るところから始まる。
彼女は昔からの習慣のせいか、寝過ごしても体は動き料理を既に作っていた。なんてことは良くあることで、永遠亭の薬剤師曰く「まさに従者の鏡ね」と哀れむような瞳で一言。
まさに過酷な朝ごはんという名の戦争を何度も何度も繰り返していくうちに、体は知らず知らずその動作を覚えていき、やがて寝ていても勝手に作っているという現象に発展してしまったのだ。
寝ているときの彼女は故メイド長も負けを認めるかのごとくである。
「妖夢ー、寝てるのー?」
桜の匂いを振りまき厨房に入ってくるのは、彼女の主、西行寺幽々子その人であった。
「よーむ? ほら起きなさい」
幽々子は妖夢を起こそうと思いパチパチと頭を叩く。これはもう十年前から始まっている作業であり、もう慣れきった行動だ。
妖夢は叩かれながらも包丁さばきが凄い言えよう、タマネギの山を切るのに僅か三秒でみじん切りが完成してしまうほどだ。
現にまな板の上にはキャベツやタマネギが切られている。
「起きないわね~……やっぱり少し食事の量を減らすべきか――」
「……幻想郷の崩壊の危機! 幽々子様! 今すぐ紫様のところに行きましょう!」
「そうね、私のことをどういう風に思っているのか分かったわ」
自らの行いを悔い改めようと言ったらこれである。このやり取りは既に百回以上は繰り広げられているのは幽々子の中で以外と新しい記憶だ。
「って、ここは厨房ですか……また寝過ごしてしまったようですね……あ、ここは乙女の戦場ですので、幽々子様は出て行ってください」
「……まるで私が乙女じゃなく全然料理できない言いかたね?」
「本当のことを言ったまでです。私は昔のときとは違うんですから、ずけずけと言いますよ?」
長く綺麗なポニーテールな髪をさらっと手で流しながら、料理が出来ない幽霊は入るなと妖夢は言う。
ホラホラと手をシッシと振り幽々子を追い出そうとする。
「言うようになったはねぇ……昔は私の言うことを聞いてくれる、心優しい妖夢だったのに……どうしてこんなに捻くれてしまったのかしら」
よよよよと幽々子は泣きまねをする、もちろん妖夢に効かないということは百も承知でやっていることである。
「幽々子様のお陰ですよ。私が立派になれたの」
幽々子に比べて貧相な胸を張りながら、力強く妖夢は言った。
背は伸び精神も本当に一人前になってきたと幽々子は思いながら、妖夢の成長していない部分を見て幽々子はプスッと笑いが出てしまう。
「ほぉ」
それを見て妖夢の笑みが深くなり、幽々子は地雷を踏んでしまったと冷や汗が出始める。
「……その腐った根性を叩きなおして上げましょう。今から剣術指南です。さぁ準備しましょうか」
「え、ご飯はどうするのよ? それにほら、タマネギとか切ってるじゃない」
「料理は後で私が一人で食べますので大丈夫です。いいですか、ご飯を食べてばっかりだから余分な死亡が胸に胸に行くんですよ……分かりますか? 言い分は聞きません。さぁ行きましょう」
その後、幽々子は剣術指南でボコボコにされ三日間食事抜きにされた。
妖夢曰く『幽霊なんですから食べなくても死にません。空腹感があるだけです』とのこと。
踏んだり蹴ったり日だったと思う幽々子であったが、それは所謂自業自得である。
が、実のところ既に数え切れないほどの同じやり取りをしており、所謂あまり変わらない日常であったのだった。
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